「佐藤晶子の写真の魅力」
佐藤晶子さんの写真を一目見たときから、
写真の持つ力、奥深さというものを改めて認識させていただいた。
特に惹かれた理由は、モノクロフィルムの持つ魅力を感じる
感性については我々誰しも持ち合わせているものの、
彼女の作品は正しく被写体の持つ表現を著しく増幅するもので
あったからである。
さらには、一見「色」の無い世界であるモノクロ写真が、
佐藤さんの作品はカラー写真より数段表現力が高く、深遠であることに、
能との共通性を強く感じた。
写真を撮るにあたって様々なデッサンや技術や知恵は、
云わば学術的に必要なことであろうが、失礼ながら単に何方かの作風を
真似たり、小洒落たセンスのみに頼っている写真を巷に時々みかける。
佐藤晶子の写真は、被写体の持つ様々な魅力を見抜くところから始まり、
それを芸術として作品にしている。
それは空間創造と言えるものではないかと思う。
彼女が「空(くう)」や「夢幻」というものに、
たとえば「水に映る月」の如くに、手に取ることが出来ずとも
確かに存在する「何か」に深く惹かれて撮るからであろうか。
「能」が未だに生き続けてきた理由の1つに、
省略の芸術による前衛性に加えて、鑑賞者の想像力に頼る
空間創造というものがあり、それは宇宙哲学的な思想に
基ずいているのではないかと考える。
佐藤氏はこれをも見抜いたのか、今回「夢幻泡影」というタイトルで
「能」を素材に写真展をなさるのは、私ども「能」を伝承する者として
感謝し、また興味の尽きないところである。
佐藤晶子の世界を、「なんてんカフェ」さんの空間を、
是非ともお楽しみ頂きたいと願う次第でございます。