いよいよ能「邯鄲」のお話にまいりましょう。
シテ(主役)は中国蜀の国の青年、盧生(ろせい)。
彼は「人生とはなんぞや?」と悩んでおり、楚の国の羊飛山に住む知識人に
尋ねようと旅に出ます。
やがて、邯鄲の里に到着しました。
※今回は「傘之出」という小書(特殊演出。番組の曲目の左下に小さく表記するためにこの言い方をします)なので、大きな、長い柄のついた傘をさして登場します。
橋掛りには3本の松(舞台に近いほうから、一の松・二の松・三の松)があり、一の松付近で名乗り、そこから舞台に入る3分ほどで、あっという間に蜀から楚へ到着します。能の常套手段で、「道行」と言いますが、これで驚く無かれ、通常は3足すり足してまた3足戻るうちに数10キロ移動したりして、まるでワープです。
呂仙王という宿の女将(アイ狂言)に宿泊を申し込みます。
呂仙王は昔泊めた客人で仙人の法を使う人にもらった「邯鄲の枕」で
まどろむ様にすすめ、その間に粟のお粥を炊きましょう、といいます。
寝床に上がり、「これはことさら門出の。世の試みに夢の告げ。天の与ふる事なるべし」と
自分のこれからの天命を占うつもりで横になります。
※通常能では眠るときでも座ったまま扇などを顔に当てて眠ったことを表しますが、この曲では本当に横になります。後で夢の覚めたときの体勢と同じにする必要があるからです。
勅使(ワキ)が現れ、扇で床を2回たたいて起こします。でも実際は夢の世界に入った訳で、
やや複雑な話であります。
勅使は「楚の国王の座に着いたから、宮殿へ参りましょう」といいます。
なんのことやら解らないまま、盧生は輿に乗って宮殿へ向かいます。
宮殿は黄金や白金を豊富に使った贅を尽したつくりです。
※輿に乗ると言っても、能の演出では、輿かきが盧生の頭上に屋根を持ち上げることによって、輿に乗ったことを表します。さっきまでは寝床であった台が宮殿になり、玉座に着いたことを表します。
いつの間にか即位50年になり、臣下が仙人の薬を献上します。
それは飲むと1000年寿命が延びるというものでした。舞人が酌をし、舞い始めます。
やがて盧生も興に乗って舞います。
※盧生は即位50年といえども、いまだに何か夢見心地(当たり前ですが)な感じで、舞の音楽が始まっても最初は舞うことを忘れて、はっと気がつき扇で膝を打って舞い始めたりします。
また、タタミ1畳ほどの台の上で舞を舞う最中、「空折(そらおり)」といって足を踏み外しそうになり肝をつぶす場面もあります。 優れた能の演出をお楽しみいただけます。
この続きは次回に・・・