さてさて、第1回「満次郎の会」の楽しみ方、と題しまして、
当日お出での方を中心に ご案内してまいりましょう。
いらっしゃれない方にも、いろいろご参考になさっていただけば幸いでございます。
※第1回「満次郎の会」チケットは完売となっております
その始めは「舞台編」の①として、「仕舞」のご紹介です。
「仕舞(しまい)」は能のエッセンスです。
1曲平均1時間の能の面白い舞の部分を、「地謡(ぢうたい)」というコーラスを
バックにして紋付袴(特別な場合は裃)で舞うもので、1曲平均4分ほどです。
「岩 船(いわふね)」 佐野 登
住吉の市に現れた大和言葉(日本語)を話す不思議な中国人少年。
太平の世を寿ぎ、「如意宝珠」を帝に捧げるという。
彼は龍神の化身であった。
仕舞の部分は、後半龍神の姿で現れ、岩船に宝を積んで住吉へ漕ぎ寄せ、
さらに帝に献上するというめでたい演目。
シテの佐野登氏は、先々代宝生宗家の宝生英雄(ふさお)師の内弟子として
ともに修行し、いわゆる同じ釜の飯を食った仲間であり、
東京芸大の1学年後輩でもあります。
楽屋仲間では珍しくは無いことですが、もう30年以上のお付き合いになり、
能楽の普及、種まきというものにお互い熱い思いを持ち、
同志として頼りにしています。
「天 鼓(てんこ)」 金井 雄資
中国のお話。
母親が「天から鼓が降る」夢を見て出生したので「天鼓」と名づけられた少年。
その後、本当に天より鼓が降りくだり、少年が打つと妙なる音がでた。
それを聞きつけた皇帝が鼓を差し出す様に要求したため、
天鼓は鼓を持って山中に隠れるが、遂に見つかり鼓を奪われるのみならず、
呂水へ沈められ殺されてしまう。
件の鼓はどんな名手が打とうとも音が出ず、
天鼓の年老いた父親が連れ出されて、皇帝の前で命がけで打たされる羽目に。
しかし、天鼓の力添えがあったのか、鼓は妙なる音を出し、
流石に皇帝も天鼓を哀れみ、手厚く管弦講で弔うことにする。
仕舞の部分は、弔いを喜んだ天鼓の亡霊が現れ、鼓を打ち舞い戯れる場面。
シテの金井雄資(ゆうすけ)氏は私と同い年で、やはり30年以上のお付き合い。
気鋭として知られる彼には、普段の舞台のみならず、
新作能「マクベス」、「六条」でも地頭をお願いしました。
「草 薙(くさなぎ)」
ご存知三種の神器のひとつ草薙の剣。
熱田神宮で経を講ずる上人のもとへ現れた、花売りの夫婦。
熱田の神剣草薙の剣の縁起を語ったあと消えうせるが、
真の姿である日本武尊(やまとたけるのみこと)と橘姫の夫婦の神が現れ、
草薙の剣で鈴鹿の夷を退治した様を物語る。
宝生流のみにある曲です。
仕舞は、日本武尊が草薙の剣を抜いて夷を退治する場面。
シテの宝生和英(かずふさ)師は、23歳の若き宗家。
昨年4月1日に宗家継承し、宝生流を背負う立場となられ、
大変な日々であられるが、若さ一杯の清々しい御様子で期待しております。
「笠之段(かさのだん)」観世 清和
津の国難波。落ちぶれた豪族、日下の左衛門は妻に苦労を味合せることを嫌ったのか、
妻と離別し、今は芦刈人となって、芦を売る暮らしをしている。
教養高い妻は、さる高貴な方の乳母(養育係り)となって
身分も高く暮らしも豊かになった為、左衛門を迎えに来る。
今の身を恥じた左衛門は身を隠すが、妻は和歌を詠じて夫を慰め説得し、
やがて打ち解けて身も整えた左衛門と連なり幸せになったという話。
仕舞は、芦を売るためのパフォーマンスとして、笠を持って舞う場面。
仕舞では扇を利用して笠と見立てて舞います。
シテの観世清和師は、シテ方観世流の宗家。
普通ならば他流の個人的な催しに出演していただくことなど、
無理なお話というものですが、東京芸大の同級生というよしみで、
旗揚げ公演に友情出演という形で、無理をお願いしました。
快く引き受けてくださった清和師には心より感謝申し上げます。
以上、仕舞4番についての簡単なご紹介でした。
能のエッセンスであり、面や装束に頼れない紋付袴で舞うため、
特にプロの演者にとっては意外と気を使うものです。
次回は「一調」と狂言について御案内します。