前回の「仕舞」に引き続き、今回は「狂言」と「一調(いっちょう)」について
ご案内しましょう。
狂言「栗 焼(くりやき)」
40個の栗を焼くように仰せつかった太郎冠者は、
不慣れな作業に四苦八苦しながらもやっとこさ焼き栗をつくります。
しかし、良い匂いのする焼き栗の美味そうなこと・・・。
ついつい少しならばと摘まみ食いをするうちに、
とうとう・・・!
例によって必死で言い訳を考える、憎めない奴です。
シテは野村万蔵氏。
惜しまれつつ他界なされた兄上の万之丞(耕介)氏は私と同年で、
長い間ご一緒し、能楽協会の仕事でもお世話になりました。
近年、現万蔵(良介)氏にも大変お世話になっており、このたびのシテをお願いしました。
主人を演じられる父上の萬師は、
人間国宝で、文化功労者で、芸術院会員で、芸能実演家団体協議会会長で・・・
その他色々、観世清和師同様、普通ならご出演願えないところですが、
社団法人能楽協会の理事長をなさっており、私も理事としてお世話になっている身として
そのよしみでご了承いただいた次第です。
一調「三井寺」
駿河の国清見が関。我が子が行方不明になり打ち沈む母。
いつも訪い慰めてくれる近所の男の夢占いで
近江の国の三井寺へ我が子を求めてさまよい出でます。
やがて三井寺で恋しい我が子とめぐり合い、
喜びのもとに連れ立って帰るというお話。
「一調」とは、囃子(楽器)のうち笛を除く打楽器(小鼓・大鼓・太鼓)の一つを使い、
特殊な演奏による伴奏で謡うスタイルのことです。
通常の演奏による場合は「独鼓」や「独調」などと言います。
一調で演奏される曲は決まった曲になります。
今回は特別に、さらに特殊な演奏で稀である「一調一声」で演じていただきます。
大倉流のみの「五色流し」という面白い演奏が楽しみです。
謡手は近藤乾之助師。
宝生流長老のお一人であられます。
能に対する深い意識やセンスは随一と尊敬申し上げております。
小鼓は大倉流宗家大倉源次郎師。
端正な姿で打つ的確で美しい音色は、これも随一です。
大倉流独自の「五色流し」の手をどのように
打ち、謡うのか、楽しみです。
お互いに合せすぎず、主張する中にも、
調和を絶対とする、一種のせめぎあいが醍醐味となります。
次回はいよいよ能「邯鄲」のご紹介をお楽しみに・・・。