立春が過ぎましても、あいかわらず
新幹線は徐行しております・・・
のうのう能特別公演は、超満員のお客様のなか、
好評のうちに終了しました。
主催の観世喜正さんは39歳ですが、もっと以前からこの会を立ち上げ、
普及に尽力なさっており、才能も長けておられます。
宝生と観世の見比べが出来た方は、それほどいらっしゃらないかもしれませんが、
それぞれの主義・主張を我々役者も見直す切っ掛けになったと思います。
とても良い緊張感が舞台にも出ていて、若手も刺激を受けてくれたと喜んでおります。
途中、あってはいけないことですが、静烏帽子がポロリとなりました。
この静烏帽子は、義経との別れの場面で、
「烏帽子ひたたれ脱ぎ捨てて」という謡に合わせてパラリと落とす所作があり、
そのため特殊な紐の結び方をするので、烏帽子を着付ける後見は経験と技術を要します。
簡単に紐がほどける仕組みなので、その分、途中で落ちやすいのです。
しかし私にとっては初めての経験でした。
少なからずガッカリもしました。
されども、舞台上で腹を立てている場合ではありません。
その後の対応を如何にするかが、腕の見せ所、挽回のチャンスであり、
大過なく再び烏帽子を付けて舞えたのは、幸いでした。
宝生流の者が「明治の九郎先生」と尊敬し、言い習わす、「明治の3名人」といわれた
16代宗家宝生九郎先生が「船弁慶」を舞われた際、中ノ舞という舞の真っ最中に
烏帽子が落ちてしまったときに、囃子方がすぐに機転を利かせて、
「アシライ」という、烏帽子を着付けるときの演奏に切り替え、
シテの九郎翁は何事もなかったかのように後見座にくつろぎ、烏帽子をつけ、
舞台に出てまた中ノ舞を舞い始めた・・・という逸話があります。
舞台は「生(なま)」ですから何があるかわかりません。
何も無いのが最高の出来栄えですが、何かあったときに如何にカバーするかが、
心得というものでありましょう。
シテは慌てず、後見は目立たず、対応しなければなりません。
烏帽子が落ちたときに興醒めしたお客様には、
本当に申し訳ございませんでした。
もちろん、あってはいけないことでございます・・・。
「観世VS宝生」ではなく、「観世&宝生」とサブタイトルにあったとおりの、
よいよい催しであったと、感謝しております。