25  春日龍神

春日龍神は昭和61年にシテを初演してから数回勤める機会がありましたが、

観ても楽しく、演じても気持ちよく、好きな演目です。

 

11日の大阪定期能「七宝会」、14日の東京宝生会「月並能」で演じられ、

偶然にも両方とも地謡に参加いたします。

 

明恵上人(ワキ)が入唐渡天(中国に入り天竺《インド》に渡る)して

仏蹟を訪ねて修行をしようと思い立ち、春日の宮に暇乞いをしに来ます。

庭を清める宮人(前シテ)はそれを聞き、引き留めます。

 

 当時、海を渡るということは生還の確立も低く、心配したということもありますが、

この春日野で普段奇特を見ているのに、今更命賭けで何をこれ以上もとめるのか?

と、言うのです。

 

その奇特とは・・・・

上人が参詣した際に、三笠の森の草木が枝を垂れてお辞儀をし、

鹿までも膝を折り角を傾けて同じく上人を礼拝したという奇跡でした。

 

宮人はまた、春日明神は上人を片腕のように思い大事にしているので、

日本を離れるのは神慮に背くことになるからやめなさいと説得します。

 

ついに入唐渡天を断念した上人に、

「三笠山を五天竺にして、摩耶の誕生から釈迦の入滅まで再現してやろう」

といって消え去ります。

 

はたして、龍神(後シテ)が八大竜王を始め眷属達を大勢引き連れて、

様々再現し、上人に入唐渡天の志がないのを確認して

猿沢池に飛び込んで失せます。

 

その壮大なスケールを1人で演じるのですから、

難しくも面白い能の演出であります。

 

七宝会は甥の32歳辰巳孝弥、月並能は50歳金井雄資氏のシテです。

 それぞれ時分に応じた舞台を充分発揮してくださる事を期待して、

大いに楽しみにしております。