2010年4月アーカイブ

35  諸行無常

諸行無常・・・

能の詞章「謡」の中にはよく出てきます。

お釈迦はこの言葉を悟って出家したとか。

 

「諸行無常。是生滅法。生滅滅已。寂滅為楽。」

これは涅槃経の「諸行無常偈(げ)」と呼ばれますが、

能のテーマとも言えるかと思います。

能「三井寺」の鐘ノ段という部位に、

鐘の音の響きの喩えとして引用もされています。

 

「この世界に変わらないものはない。全ての『生』は『滅』となる。

  生を永遠と思えば滅は『苦』であり、生が滅しきれば、『楽』となる。」

 

    「諸行無常。朝に紅顔あって世路に誇れど。

          暮には白骨となって荒野に朽ちぬ。

    猛き者もついには滅びて。ひとえに風前の塵に同じ。

          夢幻の世なりといえども。

                あら苦しや 閻浮恋しや。」 

 

    能「マクベス」後シテ マクベスの亡霊の第一声です。

  

この世の「生滅」が法であるのは承知していますが、

 無常観を強く意識しながら、この謡をかみ締めて稽古することになりました。

 

 

 

  

 

  

 

 

 

 

 

全流儀の能楽師で構成される「能楽協会」は
芸術文化団体の先頭を切って、
新公益法人法施行日の一昨年12月1日に、
新「公益法人」申請を行い、
芸術文化団体の「公益社団法人」第1号として
先月19日に認定を受けました。


この法律は、全国の2万以上の公益法人を整理して、
新しい「公益財団/社団」「一般財団/社団」或は「解散」のどれかを
後3年半の間に整備、申請、認定受領、登記せねば
その法人は自動的に解散になり、最悪の場合、
資産整理、没収となる、強引ともいえる法律であります。


移行の済んでいない法人は、自動的に「特例民法法人」となっており、
便宜上今までの法人名を名乗っても良いことになっていますが、
全国でも移行の済んだ法人は数%です。

如何に大変な作業であるか、お解りいただけるでしょう。

国が決めた「公益事業」のなかに「文化芸術」が勿論含まれており、
能楽協会が申請した「能楽の普及、振興」といった事業が
「公益」と認定されたことは、大変意義深い事であります。

とりも直さず、「能楽」の実演なり、普及活動なりが公益性のあるものだと
認められたということは、喜ばしい限りでございます。


この4月1日に内閣府に登記を済ませ、無事「公益社団法人能楽協会」が
スタートしました。

太平洋戦争終戦の翌月に発足した能楽協会にとって、
記念すべき出来事でありましょう。


理事の端くれとして、法人運営委員として、肩の荷を一つ
下ろした気持ですが、


同時に法人や、能楽界に向けられる視線も厳しくなるのですから、
ますます気を引き締めねばなりません。


33  NOH MACBETH 4

29日に奈良斑鳩町の「いかるがホール」で能「マクベス」を演じます。

 

4度目の公演になりますが、作者は羽衣国際大学日本文化研究所所長の

泉紀子教授です。

5年前に同研究所のプロジェクト「東西古典の融合」の為の試みとして

ウイリアムシェ-クスピアの作品を能で演じる、というお話に協力依頼を受けました。

お引き受けするにあたって、「能」としてやるならば、

「能にないことはできない」という条件をつけさせていただき、

制作から関わらせて頂きました。

 

題材はマクベス、シェークスピアの無常観は能で表現するには良いと思いました。

泉所長の作詞に、シェ-クスピア考証も含め、学術的にも、実演的にもじっくりと

練り上げられて2005年10月に堺能楽堂で初演がなされました。

入院中の父の容態が悪い中、なんとか無事に終了しましたが、

翌々日に父は他界しました。

 

古典と違い、師に教わることもできない新作を演じることの難しさは、

いかほどか色々の面で勉強になりましたが、

父はどう思ったかは不明のままで・・・

 

翌年3月に大阪能楽会館、その翌年12月にMOA美術館で公演し、

ワキ・囃子方・狂言のメンバーを変え、細かい型も調整しながら、

進化していきます。

 

今回は劇場公演で、毎年能の公演を行っているホールですが、

同月に通常の能の催しも行われるので、マクベスについては、

松羽目や揚幕は使用せず、野外での雰囲気、深い霧に包まれた

古城の設定で演じる予定です。

 

能の持つ前衛性を充分活用して、伝統的な手法による新作能の可能性を

味わっていただきたいと思います。