37  善知鳥

いよいよ明後日に迫って参りました、急遽代勤をいたします

「善知鳥(うとう)」のご紹介を・・・

 

富山県立山で諸国修行の僧(ワキ)は老人(前シテ、安方の霊)に声を掛けます。

 

老人「陸奥にお下りなさるなら、外の浜にお立ち寄りいただき、

   去年の秋に亡くなった猟師の家を訪ねて、その妻子にこの蓑と笠を手向けるように

   言伝していただけませんか?」

 

僧  「それは構わないが、いきなりそう言って訪ねても、

   信じるだろうか?」

 

「では確かな証拠に」と、最期まで着ていた衣の片袖を僧に渡します。

舞台上で着用している装束の片袖を引き抜く、という大変珍しい所作も見どころです。

老人は地獄におちた猟師安方の亡霊で、下っていく僧を涙ながらに見送ります。

立山の地獄の入り口まで覗きにきた僧に

伝言したのでしょう。

 

外の浜(青森市)でその妻子を訪ね、事の次第を伝え、

衣の片袖を合わせるとピッタリと合い、

やがて笠を手向けて弔いを始めます。

 

弔いによって妻子の元に現れた安方の霊は、

死んでからようやく親子の情と言うものが人間だけではない、

自分が殺し続けた鳥や獣、特に善知鳥は親子の情が深く、

愚かな事をし続けてしまった、と歎きます。

 

そして我が子の元へ走りよろうとすると、

自分の罪業により現れた雲に遮られ、近寄る事もかないません。

そして罪障懺悔に善知鳥を獲った様を再現します。

伝説として「親鳥が雛を呼ぶ『ウトウ』という声を真似ると、

雛が『ヤスカタ』とこたえるので、簡単に捕らえる事ができる」

という話が出てきます。

 

外の浜を治めた「善知鳥中納言藤原安方」に因んだ話でしょうか。

 

雛を捕らえると、親は空から血の涙を大量に流し、

その血に触れると命をも失う為、善知鳥を捕らえるときには

蓑と笠を着用するのだ、と伝説は続きます。

 

罪障懺悔では、実際にそのさまを表現します。

これも大きな見どころで、我々にとっては難所であります。

 

地獄では善知鳥が鉄のくちばし赤銅の爪を振りたて

安方を襲い、眼を掴み出し、さらにはタカと変化した善知鳥は

キジとなった安方をおそうという、凄惨な地獄の様を見せ、

やがて僧に回向を頼み消え失せます。

 

ポッドキャスト番外編