126  第3回「満次郎の会」お楽しみ満載 その6 夜の部

昨日は名古屋の某カプセルホテルで過ごし、久しぶりに身体を縮めてまどろみました。

台風で新幹線が名古屋までしか動かず、名古屋のホテルは完売でしたから

致し方なかったのですが。

 

昔はよく寝台車に乗りました。急行「銀河」のB寝台など、上中下3段ベッドでした。

膝を立てたまま・・・・なのを思い出しました・・・。

 

いよいよ「夜の部」です。

 

夜は「人が執心によって鬼と化したものども」です。

 

「おはなし」は増田正造先生。

おそらく「葵上」の解説は数多くなさっているでしょう、

普段うかがえない、深いお話に期待しております。

 

仕舞「船 橋」、「佐野の船橋取り放し」の伝説、

二親が我が子の恋愛を阻止するために取り放した「船橋」。

そうとは知らず夜更けに逢おうとし、船橋を踏み外し水に沈んで果てた悲話。

執心の鬼と化した男の、罪障懺悔の場面です。

 

「鉄 輪」、有名な陰陽師安倍晴明登場の物語。

裏切られた夫を呪い殺そうと、貴船神社に足しげく参った女。

「頭上に鉄輪を付け、火を灯し、赤い着物に赤く顔を塗り、怒りを持てば

叶えてやろう」との御告げがありました。

丁度夢見の悪い元夫は、訪ねた晴明に真実を聞かされ、

今夜命を落とすと知り、慌てて助けを乞います。

恐ろしい形相で現れた女は、元夫をとり殺そうとしますが、

晴明の祈祷により出現した神々に阻まれてしまいます。

 

「綾 鼓」、鼓を鳴らして音が出れば姿を見せてやろうという言葉を信じ、

恋する女御の姿を一目見んと必死に綾の鼓を打つ庭掃きの老人。

騙されたことを恥じ、恨み、池に身を投げてしまいます。

女御に憑き祟る老人の悪霊は、激しく女御を攻め立てます。

不思議なことにこの曲には鎮める立場の者がおりません。

それほどに激しいのか、救われないまま終了します。

能では「奥伝」の扱いです。

近年仕舞としてこの部分が上演されるようになりました。

 

狂言「伯母ケ酒」、酒を飲みたいために、鬼に変装する甥っこ。

伯母とのやり取りが軽妙でです。

昼の部と違って、鬼に化けた男の作戦ですが・・・。

 

一調「女郎花」は葛野流一調では、唯一「鬼(邪淫鬼)」の登場する曲です。

ゲストの観世流分家、銕仙会ご当主の観世銕之丞師と

亀井広忠さんの「調和と不調和のギリギリの闘い?遊び?」の空間、

一調の醍醐味に御期待ください。

 

 

 

能「葵 上」梓之出、これは蝋燭能で演じさせていただきます。

 

左大臣息女、光源氏正妻の葵上には物の怪がとりつているとの噂しきり、

医療も加持祈祷もすれども功なく、梓弓の名手、「照日巫女」が呼び寄せ

られ、六条御息所の生霊の仕業と判明しますが、鎮静できず。

横川小聖が呼ばれ、祈祷すると本体が現れて、

死闘の末、やがて鎮まります。

 

梓之出の特殊演出は、主に御息所の登場場面にあります。

まずは巫女の祝詞が始まると、「半幕」でバストダウンのみ見せ、

幕離れ、一之松と、たびたび止まっては繰り返し泣き(シオリ)ます。

巫女の奏する(と思ってご覧くださいね)梓弓の音に引かれて、

霊が呼び寄せられる訳です。

傷んだ牛車に、青女房も巫女には見えるようです。

 

意味としては、照日巫女のみが姿を見ており、

最初の対話は実は全て御息所のセリフであり、

口寄せ(霊媒)である巫女の口から出ていると言う事です。

 

その後、様子を臣下に報告すると「大方は推量している」と。

そう、世間も含め、皆知っているのです。

なんとか鎮めようとする巫女ですが・・・。 

「枕の段」」と呼ばれる、ホタルを追いかけ光源氏を慕い、

やがて恨みを増して、幽界に連れ去ろうとする御息所。

 

横川の小聖が呼び出され、祈祷を始めると、

鬼の姿となった御息所に対して数珠をサラサラと押し揉んで

終には祈り伏せます。

 

「世にまつろう」形をとりつつも、裏には「これでは済まないのが執心」と、

能「葵 上」作者の真意があると思えば、この曲の強引な最終章も

おさまるのではないでしょうか。

 

「鬼」と化したものは「退治される」のではなく「鎮められる」対象となっており、

成敗されることもありません。

 

それは、だれの心の奥底にも「鬼」が棲んでいるからなのでしょうか。

 

是非、満次郎の会にお出かけいただき、「鬼」にも

思いを馳せていただけば如何でしょう。