2013年5月アーカイブ

能面は我々シテ方能楽師にとって、有形の伝承物では能舞台、能装束、型付などとともに、

いや、その中でも最も大事な位置を占めるものでありましょう。


先日、薪能ルーツの興福寺薪御能で勤めた「阿漕」に使用した河内作の痩男を、

観能にいらした記者の方に御見せして、色々お話したら、

思いがけず記事にしていただきました。

日経新聞「春秋」


我々の思いをよく伝えて下さった名文と、感謝しております。


伝承者としての重い役目を持つ能役者、

有形無形の様々な伝えもの、

一生演じない、身につけない物も含まれていながら、

伝えなければ、なりません。


能面は舞台で使うために作られ、舞台で使って生き続けます。

幾世代もの命が詰まっている・・・。

それを残してくれた先人に感謝して、己も努めを果たさねばなりません。


文中、「美術館の能面が死んでいる」とは、

美術館の能面が意味のないものとの表現と思われる方もありましょうか?

私は決してその様な事は、考えても居りません。

字数の制限下で書かれた方も、同じでありましょう。


私の考えを正確に表現するなら、「眠っている」でしょうか。

温度、湿度、照明など、科学的に最適な環境で保存されている能面が、

傷んでしまう不思議、の話。


しかし、その逸品も、見る方によっては活躍した姿を想像できましょう。

そして、場合によっては専門の修復家が修復して美しさを取り戻すことも可能でしょう。

更には、たまには舞台で使用する機会があるものも、可能性としてはあります。

豊橋魚町の保存会所蔵の吉田藩旧蔵逸品を拝借して、

第1回、第4回の吉田城薪能で使わせていただいた時には、

能面が眠りから覚めるのを感じました。中から確かに「何か」が出てきて、

その体験は生まれて初めてのものでした。


ですから「休眠中」と、考えております。

しかし、そのまま「永眠」しては、やはり勿体無いこと。


演者と一体化したものを観るのと、ガラスの中の物を鑑賞する違い、

舞台で使うもの、使わないものという意味であり、

そもそも、「目的」が違うのですから、悪い意味もありません。


美術館、博物館、収集家の大変な思い、努力も存じて居ります。

ですから、感謝もしております。

その上、東京芸大美術館「漱石展」にも、当家の能面「姥」が展示中です。



このことは誤解して頂きませぬよう、くれぐれも、宜しくお願い申し上げます。


使い続けることによって、傷まずに、生き続ける、不思議、しかし成程・・・

という話でございます。


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           photo by  akiko sato








熱海にありますMOA美術館には立派な能楽堂があり、

定期公演を開館時より開催してらっしゃいます。

8月1日2日の薪能、同じく8月の能楽サークルを含めて、

能楽の催しが盛んに行われ、地域の方はじめ、遠くからもお越しになる方もあります。

「美」というものがシッカリ詰まった美術館で、能の美を楽しんでいただけるのは、

こちらだけだと思います。


25日(土)13:30より、

◆能楽ミニ講座  辰巳満次郎

◆仕舞 「春日龍神」辰巳和磨   「野守」山内崇生

◆狂言 「空   腕」山本泰太郎ほか

◆能  「三   輪」辰巳満次郎ほか


絶景の美術館で、自然の美とともに、能の美、作品の美を御堪能くださいませ。

また、 お知らせ にもありますように、

先着5名さまに満次郎よりB席1,000円特別割引の御提供をさせていただきます。

※A席は完売でございます。


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薪能大ブームの頃は、年間で全国100箇所以上で行われていた薪能、

いつの間にか夏場の風物詩の様に考えられ、なんと夏の季語になってしまいましたが、

本来、薪の神事である訳で、そのルーツはなんと1150年前より続く、

興福寺薪御能であり、興福寺お水取りの修二会の儀式で行われたものです。


従って、寒い時期に執り行われたものでしたが、

戦後に保存会が発足して主催するようになってから、観客の事も考えて5月になりました。

ですから、奈良では5月の季語となっています。

長年、11日・12日と決まっておりましたが、実はこれには神事・仏事としての意味は無く、

たまたま四座(観世・宝生・金春・金剛)の話し合いで最初に決まった日が

踏襲され続けただけの事だったらしく、一昨年からは第3金・土曜日と変更され、

平日お勤めの方にも、ご覧いただける曜日となりました。


本年は私は二日目、土曜日の留め(最後の出番)となり、

初番は観世喜之師の「巴」、茂山家の狂言、そして私の「阿漕」です。


昼間は春日大社で古式に則って、能も演じられます。

特に初日は、能ができる前からの3人で演じる「翁」もあります。


薪御能は17時半から、般若の芝跡で開催されます。

運慶の父、康慶の作った仏像がある南円堂側です。

南円堂も1200年祭とか、北円堂は運慶の仏像ですが、

この二つの仏像のポスター広告はJR駅でよくお見掛けと存じます。

「父、康慶。子、運慶。」


能楽の世界では、

「父、観阿弥。子、世阿弥。」

の680年、650年に当るとか。


大昔の状況に、可能な部分は近づけて欲しいと仰る興福寺のご意向にも沿いながら、

素朴で大らかな舞台環境の下、タイムスリップしていただけたら幸甚です。


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興福寺薪御能の御案内詳細


ああーーーっと言う間に、黄金週間も終わり、

勿論私は毎年の如く、「連勤」でございましたが、

皆様方には、如何お過ごしのことでありましょうか。


巷では風疹が流行り、風の冷たい時もあったせいでしょうか、ご用心の程を。

私は熊野寿哉氏との「いけばな」との習合ワークショップを皮切りに、

民族移動中の日本の中を、流れに飲み込まれずに

なんとか無事に諸国を行脚できました。


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京都の奥、綾部の長生殿舞台では、自然光を感じての昔ながらの

素晴らしい能舞台で、愛好家の方々の助演と、自らも仕舞を勤めました。


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5日には、私としては「初舞台」なる、国立劇場大ホールでの、

上方舞「吉村会」で、「葵上」の謡で出演させていただきました。

吉村流では、通常謡部分は、本職の我々が勤めるようです。


舞手は吉村胡満輝さま。 謡をお教えしている御縁です。

地方は富山清琴師、人間国宝。

とても良い経験でした。刺激的でした。

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いよいよ新緑の眩しい時、これからは

野外でも室内でも、多くの舞台が展開される「春の陣」でございます。